釧路川漕行記

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釧路川、というより湿原のなかの川にはには思い入れがある。
もう3年まえになるのだが、僕は始めての北海道旅行で、道東を自転車で走りまわった。旅行の始めで印象に残ったのは、霧多布湿原(きりたっぷしつげん=釧路の東にある)を蛇行する川の姿だった。あの湿原のまんなかに行ってみたい。
「あの川を伝っていく手段があれば行けるのに」
そして、和琴半島のキャンプ場に着いたとき、ファルトボート(組み立て式カヌー)を持っている人がいた。このひとは湿原のまんなかにいけるのだ、と思ったら羨ましかった。いつかはこんな組み立て式の船を持って、釧路の川に来たい。
もし次に来るときはこれにしたい。全然達成するあてのない、旅先での希望だったはずだった。

それから2年経ち、ファルトボートを買ったのも、釧路川がちらついたからである。いつかは釧路川!いつかは湿原のなかの川!

そして、今回。
行って来ました、釧路川!



8月10日(東京→和琴キャンプ場)

ANA741便は、ハイシーズンで混みあう羽田をすこし遅れて出発し、10:45釧路空港到着。
同行者はえふきゃんぷの鍋さん。鍋さんには去年も誘われたが流れた。休みの都合と、すこしは自分の技術に自信がついてから釧路川に行きたいと思ったからである。もっともこの1年で、そんなにたいした技術がついたわけでないが。
あとは「お安い」ファルトボート愛艇キャンペットがどこまでがんばってくれるかである。前回のGWの四万十川で、キャンプ道具一式がちょうどぴったり入ることは確認してある。船が短いのでスピードがでないくらいで、僕にとっては組み立てやすくていい艇である。

さて、空港から釧路駅まで40分、850円。バスのなかで思い出した。釧路駅前、和商市場の入り口のわきのおいしい寿司屋。
「鍋さん、昼、寿司食べません?」「いいねえ」
北海道の貧乏旅行者は、うに丼を安く食べたいのなら迷わず和商市場と教わる。ごはんと「うに」を市場内で別々に買ってうに丼にすれば格安でかなりの量を食べられるのだ。ライダー、チャリダー(ちゃりんこライダーのことをそう云う)の専売特許かと思ってたやり方だが、いつのまに定着したのか、市場の入り口のベンチにはスチロールの丼を持って食事してる人がたくさんいた。うに丼よりもイクラ丼をやっている人が多かったようだ。
イクラ丼にも心動いたが、当初の目的通り、寿司にした。市場のなかにあるだけあって、ネタがよくておいしい。
そのあと、本日の夕食の買いだし。生鮮食料品以外は、はすむかいの長崎屋で買う。ここなら食料品から酒、衣類、書籍などなんでも手にはいる。

1時の列車に乗って、釧路をあとにする。1両編成のディーゼルカーは観光客でけっこう混んでいた。車窓から見える釧路川にカナディアンが浮かんでいる。
湿原部の水はあまりきれいでないようだ。でも湿原を流れる釧路川だ。ついに来たなあ!

14:28摩周駅(もとの弟子屈駅)着。NEC(ノースイーストカヌーセンター)のひとが迎えに来ていた。今回我々のほかには大阪から来た人がひとり。ひとり旅かと思ったら、「連れは和琴キャンプ場で待ち合わせている」のだそうだ。
「買いだしありますか」と、NECの人が聞く。大阪の人はまだと云う。途中のスーパーに寄った。そのあと、NECの建屋にいき、あらかじめ送ってあった大荷物を車に押し込んで、雑然とした部屋(クラブルーム?)で川の説明を聞いた。机の上に貼った写真は、例の釧路川の難所、「土壁」、弟子屈の瀬、南弟子屈の瀬などである。なかなかこうして見るとあぶなそうだ。

説明のポイント
「土壁」…手前から3か所にショッキングピンクのテープが結 び付けてある。ここは流れが複雑。川の流れを横切っ て左から右に伏流が走っている。川を横切った流れは この土壁に吸い込まれている。とにかくテープが見え たら左によせてエディに入ること。。ここに張り付 いたらけっこう大変。
「南弟子屈の瀬」…銀の塔が見えたらカヌーを右岸につけて ボーテージ。ここで船を壊す人がよくいる。
「塘路湖の別れ道」…正面に鉄板の壁が見えたところ。そこで 振り返れば塘路湖に続く水路が見える。
「岩保木水門の下流」…ほとんど行く人はいない。行った人は みんな向かい風の海風で苦労して後悔している。

ここでもらった情報は役にたつ。といっても我々はそんな情報を100%活用しないでばかなことをやることになるのだが、それはまたあとの話。
岩保木水門の下流の話を聞いて、河口まで苦労して行くのはやめることにする。それよりも途中の塘路湖に寄って1泊したほうが楽しそうだ。
土壁が「川の平面交差」的な水の流れをしているとは驚いた。東京で集めた情報もまだまだ手薄である。

さてさて、ひと段落したあとで出発。
町はずれの摩周大橋の上で車を徐行させて教えてくれた。「弟子屈ではここにテント張っている人がけっこういるよ。トイレも、コンビニも、ほか弁もあるからね。」本当に地元に密着した情報源である。あしたの夜はここにテントと決めた。
ちなみに、宅急便の受け取り、摩周駅への出迎え、屈斜路湖までの人と荷物の搬送、お金に換算できない貴重な情報をもらってNECの料金は3500円だった。タクシー代が摩周駅から屈斜路湖までだいたいそのくらいとのこと。(ちなみにこの区間はバスなんてほとんどない)かなり値ごろなサービスである。ちなみに、カヌーのレンタル、荷物だけ屈斜路湖に運んでおくサービスなんかもしますよとのことでした。

木々のあいだに釧路川を見ながら、4時頃、和琴半島キャンプ場着。「ここがキャンプ場の受け付けだから」と、云い残してNECの人は去っていった。とりあえず受け付けしようとログハウスの事務所に入る…
「予約してますか?」
「いいえ」
「予約ないと区画サイトのすき間にテント張ってもらうことになるのですが…」
「は?」
和琴半島の、ログハウスのキャンプ事務所を持つ国営キャンプ場は予約のない人をむげにあつかうという評判の場所である。事務所のお兄さんの答えは予想通りだった。
3年前、僕はこの和琴半島に泊まっている。この国営の奇麗なキャンプ場ではなく、駐車場をはさんで向かい側に村営のキャンプ場にである。
村営のほうのキャンプ場は予約なんか必要ないのでライダーとチャリダーの天下だった。管理元はキャンプ場の入り口に建つ和琴レストハウスで、行ってみるとどこでもテント張ってくださいとのことだった。ひとり300円。

キャンプ場はすでにテントがひしめいていた。湖のほとりの最前列にファミリーキャンパー、その後列にひとり用テントのライダー、チャリダーがテントを並べていた。我々もファミリーキャンパーのうしろに陣取り、テントを張る。一緒にここまで来た大阪のひともあとから来た友達と合流し、同じ所にテントを張った。

和琴レストハウスで「いもだんご」を買ってくる。「いもだんご」はじゃがいもと片栗粉を8:2に混ぜて焼いただんごで、(店のひとがそう説明してくれた)この近隣の土産屋ではみんなこれを売っている。が、この和琴レストハウスのが近隣で一番うまい。ちゃんと原料からこねてるとのこと。一番じゃがいもの味がして、ふっくらしている。前回の旅行でけっこう感動した味のひとつである。和琴レストハウスに行ったら、食うべし。

風呂にいこうと、ぬけぬけ国営キャンプ場に足をのばした。しかし、シャワーは5時までとのことで、既に終わっていた。和琴半島のくびれたところにある露天風呂は公園のなかにある感じで観光客がいっぱい。そのまま半島のなかにある風呂に向かう。が、この風呂がとてつもなく熱い。かくて、鍋さんは風呂を諦め、僕はそのまま半島のくびれたところの露天風呂に入った。常に人が来るのでなんか落ち着かない。しかし、ひさびさの露天風呂は気持ち良かった。
和商市場で買ってきたさけとほっけを焼き、サッポロビールクラッシックを飲んだ。すっかり気分は北海道である。このキャンプ場は冷たいビールが手にはいる。
夜も更けて、ウイスキーに切り替えて夜の湖を眺めた。ランタンの灯を消すと、あたりはキャンプ場の街灯だけ。屈斜路湖は沿岸に人家のない、まっくらな湖である。
景観の名所である美幌峠を下ってくる車の灯が、はるか遠くにひとつ、ふたつ見えていた。