釧路川漕行記

TOP

8月10日

11日

12日

13日

14日

15日


8月11日(和琴半島→弟子屈)


朝、6時起床。
北海道のキャンプ場の朝は早い。既に荷物を整え始めているライダーがいる。チャーハンの朝食の後、カヌーを組み立てる。僕はキャンペット、鍋さんはアクアミューズである。
ちなみに、大阪の人はQG2とFRTエリート。ふたりとも今年になってからライダーから転向してカヌーを買ったとのこと。艇がま新しい。
「FRT、高かったでしょう」
「いやあ、バイクの買い換えの替わりに買ったもんで」
「…」
そりゃバイクと比べりゃ安いわな。QG2のひとは二人乗りにひとりで乗っており、やたら荷物が多い。中サイズの透明衣類ボックスが船のなかに入ってしまうのには感心した。
出発前に鍋さんが和琴半島の遊歩道を1周してきた。ここは1周1時間弱で回れ、いろんな自然が残ってて面白い。僕は前回も行ったので遠慮した。帰ってきた鍋さんが言った。「リス、見たよー。」しまった、行きゃよかった。

湖面はけっこう風が強かった。「半島の先は3角波がたっていた」とのことなので、我々はカヌーでの半島1周をパスして東側にカヌーを運ぶ。観光客の注目をあびた。大阪のふたりはもう荷物運ぶの嫌と云ってそのまま波の荒い湖に出発し、半島1周を目指した。
「だいじょうぶかなあ。初心者だよねえ。あのふたり」「まあ本人がやるって言ってるんだし。」
まあ途中で力尽きたら今晩もこの和琴キャンプ場に泊まればいいだけの話だ。

11:15、我々も釧路川流れ込みに向けて出発した。湖面の風は見事逆風。ひたすら風を避けて岸沿いを漕ぐ。
水ぎわの木の梢に、緑がかった黄色の小鳥が跳ねていた。キセキレイだと鍋さんが教えてくれる。湖面にトンビが舞う。「リスいたよ」鍋さんが岸の木の梢にまたリスを見たらしい。僕はまた見逃した。悔しい。

12:10、釧路川流れ込み着。流れ込みは国道にかかるコンクリート橋で、たもとに駐車場のようなスペースがあり、テントがいくつか並んでた。ここでパンの昼食。
しかし、キャンプ場として考えると水場がないのでちょっと不便である。ここからアイヌ民族資料館がすぐにある筈だ。行ってみようかと思い、歩き出す。道の向こうに見える資料館までけっこう距離があり、面倒くさくなったので途中で行くのをやめた。道を帰っていたら、バイクの人が手を挙げて合図してくれた。
北海道のライダー、チャリダーはすれちがうときにこうやって合図する。ちょっと嬉しくなった。
北海道を行く旅行者にはほかの土地にない連帯感がある。

ジェットスキーが二艇ばかり湖面にエンジン音を響かせていた。気分壊すことはなはだしい。出発するころまでにはどこかに行ってしまっていた。

12:45、出発。いよいよ釧路川!
「鍋さん先行きます?」「そっちのほうが船短いんだから先行ってよ」
かくて、釧路川源流は僕が先行して下ることになる。
橋をくぐって広がるのは森のなかの川。「ひゃほー!」喜びを隠せず、思わず声を上げてしまう。
はじめの印象、「川が細い。けっこう水が早い」。水はかなり流れている。すぐに倒木が水路をふさぎ始めた。倒木の転がる川はなかなか神秘的な景色。しかし、そうそうみとれてもいられない。
右から倒れている木の数メートルうしろに左から木が倒れ込んでいるところがあった。キャンペットはS字に曲がって木を避けることができる。アクアミューズはバック漕ぎのフェリークライドでじわじわ左に進路変更して抜けた。源流部では短い艇が断然便利なようだ。苦労する鍋さんを見ながら、僕が先に行くのが正しいと確信した。キャンペットもたいしたもんだ。



川の真ん中ににょきっと頭を出す倒木もあり、どっちから倒れているのか見分けにくかった。もし右から倒れている木に、右から回り込めばひっかける。かなり慎重になった。
ともあれ、倒木はけっこう切っているとのことで、思ったよりずっと少なかった。
僕が目を凝らした甲斐あっかどうか知らないが、ほとんど一度も木にひっかかることなく進んで行った。

古い鉄橋の手前に、奇麗な建物が見えた。釧路川をくだってきてはじめて見る人家である。そこの手前が入り江になっていた。上陸をこころみるが、底がどろどろで、足が埋ってしまい、断念。カヌーの上で休む。ちなみにここは全国カヌーツーリングブックにも記載あるところだが、本では橋を一本間違えている。
鉄橋は礼文内橋より一本手前の橋である。

アブがたまに思い出したように数匹がおそってきた。「バグチェイサー」を手首に巻いている鍋さんの被害はほとんどないようだ。僕は虫の集中砲火にさらされた。虫よけネットも使ってみたが、貴重な釧路川の景色がよく見えなくなってしまうのですぐ取ってしまった。虫よけスプレーを首筋と二の腕に吹きまくって漕ぐ。

このへんに来ると瀬がある。どれもまっすぐなので、そんなに問題になるようなことはなかった。底があたりそうで気を使った。このへんの水底はこけむした消波ブロックで、あたってもぬるっとすりぬけていけた。

4時を回った頃、ついにご期待の「ショッキングピンクのリボン」が木に結び付けてあるのを見つけた。「土壁」だ。ご丁寧にひとつの木の枝に1ダースばっかり結んである。それが数十メートルおきに3箇所あり、その先は昨日写真でみたばっかりの土壁が見えてくる。
水の流れはけっこうあり、土壁はどんどん近づいてきた近くまで来たら、写真では判らなかったものが見えた。流れのどまんなかに倒木!
「!」
しかし、倒木は右から倒れており、左にはすき間があった。手前にある左から伸びている木と、浅瀬をよけ、左のエディに突入。続けて鍋さんも同じところに入ってくる。すぐに右にはどうどうと音をたてて水を吸い込む土の崖がそそり立つ。見ると、水面上30センチばかり細長い穴があいていて、水がそこに流れ込んでいる。崖の前の倒木は、激しい水の流れに幹を揺らしている。
確かに、あっち側につかまったらただではすむまい…。

ただ土壁は、一応しっかり船があやつれて、情報をもっていれば初心者でも大丈夫だと思う。とにかく左のエディに入ればいいのだ。ただ大阪のひとが持っていたQG2では苦労するかもなあ…。

土壁のすぐ先には小石の浜があった。久しぶりの上陸ポイント。上陸して水だしをした。そろそろ日も傾いてきた。
あと少しで弟子屈。漕ぎ始めると、いきなり川が4叉路になっているところにでた。地図にない場所。それにこんな話は全然聞いてない。流れ込みが2本、流れ出しが2本。流れ込みのもう1本はすぐそこで護岸壁で行き止まりになっている。そこから水が流れてきている。どうやら土壁に流れ込んだ水の出口のようだ。交差点中央の浅瀬に座礁し、そこで立ち上がって、ひとしきり悩む。選べるのは、3面護岸の水路と、もとからあったような木の間の流れに注ぎこむ川である。
もういいかげん時間も遅いので、安全策をとろうと水量の多そうな3面護岸の水路を行く。数100メートル行ったところで川は合流していた。なあんだ。

5時頃、本日のキャンプ場と決めといた摩周大橋着。はじめ上流側に上陸するが、岸に登りにくい。1メートルの段差をひっぱりあげる必要があった。こんなことするからカヌーの底に傷がつく。偵察にでた鍋さんが下流側のほうがいいと云う。
当然移動した。橋の下流側左岸にはスロープになったカヌー上陸ポイントがちゃんとあり、護岸堤防の階段をあがれば、温泉案内所付属の「弟子屈町内で唯一24時間空いている」公衆トイレがある。トイレ入り口に「カヌーで来た人は濡れている靴をふいておあがりください」の貼紙があり、掃除が行き届いてきれいだった。


テントを張ってから風呂を探しに行く。土手を登ったところでばったりNECの人に会った。自転車を犬で引かせていた。「冬のソリ競争の訓練中なんですよ」
やっぱり北海道である。
風呂のことを聞くと、町のなかの共同温泉を教えてくれた。向こうに見えている「ホテル丸米」(まるこめと読む。冗談みたいな名前だ)と「弟子屈パークホテル」の間にあるとのこと。

弟子屈共同温泉は250円。いわゆる町の銭湯のようだ。2日ぶりの風呂。頭からつま先までよーく洗って風呂からあがったら、待ちくたびれた鍋さんが「30分は待ったよー」とのたまった。僕は旅行にでると長風呂なのである。そういえば四万十川のときもみなさんをお待たせした覚えがあるなあ…。鍋さんは土地の人としゃべっていた。共同温泉はここの他にもふたつあるが、どちらもぬるいとのこと、どのホテルでも500円で風呂に入れてもらえるだろうとのことであった。

風呂を出て、帰り道の定食や「吉松」で夕食にする。キンキンに冷えた生ビールと、ほっけ焼きがおいしかった。町でキャンプすると外食ができるから良い。

帰ってきたら、屈斜路湖の波間に消えてった大阪のふたりが到着していた。
「無事でしたかー」
「はい、6時頃着きました」
やっぱり船体の長い船だけある。屈斜路湖のあの三角波のなかを漕ぎ切り、我々にわずか1時間遅れで到着したのだ。
「源流部、無事にくだってきましたか?」
「いやー、思い切りひっかかりました。でもじたばたしてたら何とか外れまして」
「はあ」
「こんなん、木が倒れているの見てやばい、思いましてな、あわてて連れに曲がり方、教わったんですわ。」
もしかして大阪人って無謀なのだろうか。