釧路川漕行記

TOP

8月10日

11日

12日

13日

14日

15日


8月13日(標茶→塘路湖)


6時ごろに目が覚める。
まだ雨がテントを打つ音が聞こえたのであんまり起きたくなかったが、ごそごそテントからはいだしたら雨はやんだ。
川の水が増えている。岸に置いておいたアクアミューズのそばまで水が来ていた。水は昨日と打って変わって、土色に濁っている。

ラジオでは、ゆうべの豪雨で層雲峡が崖くずれしたとか、釧路市で停電があったとか云っている。さすがに雷に打たれて死んだカヌーイストの話はしてなかった。
本日の天気予報、午後から雨50%。釧路南部、大雨、洪水、雷、濃霧注意報発令中。オンパレードである。寒冷前線が下りてきたとのことで、北の方がもっとひどいようだ。朝食をとりながらラジオを聞いていると今度は降雨確率が30%と云った。これは行けるな。
これから先では買い出しができないので、出発前に買い出しに行く。開運橋下にあったテントの大群はきれいさっぱり出発したあとだった。10時まで出発してない、ぐーたらなカヌーイストはあんまりいないらしい。開運橋のすぐそばのスーパーがもう開いていたので、2日分の食料を買い込む。

11時、大阪のふたりを追いかけるように出発。結局この日は大阪のふたりを加えた4艇で漕ぎ下っていく。
川の水の透明度は10センチもなかった。かなり土がはいっているようだ。まあ、川のまわりに土がむきだしの場所が多かったから土が流れ込むのもはやいのだろう。
護岸にカモメの集団がいた。カイツブリのたぐいじゃないかと鍋さんが云う。カヌーで下る人を見送っているようだった。
町はすぐに終わって川は牧草地帯を流れていく。牛や馬が川に下りてきて水を飲んでいた。かなり近くまで船で寄れる。


馬と目があった。「けっこう気が荒いから気をつけたほうがいいよ」云われて気がついた。川が濁って判らないが、カヌーのところまで馬が来れるような浅瀬という可能性もあるわけだ。僕はのたのたと馬から離れた。

標茶から下の釧路川は一気に川幅をひろげる。これが浅瀬がけっこうある。というより、昨日の雨で中州が水をかぶったらしい。浅瀬は土色の水に隠れて見分けがつかない。4艇はそれぞれに底をこすりながら下っていった。

12:30昼食上陸。ずいぶんと小さな中州である。ここも昨日の雨で取り残されて中州になっているところらしく、地面に馬の足跡がたくさんついてた。FRTとインフレータブルの3人組が下って行く。「ここでキャンプしたんですかー?」「こんなところにテント張ったらゆうべのうちに流されてますよー」アホな会話を交す。

川に出る。流れは結構ある。カヌーツーリングガイドでは流れがないと書いてある区間なので、昨日の雨の影響だろう。けっこうラッキー。かくて、みんな漕ぐのをやめてふらふらと流れて行く。ぴい、ぴい、と、間の抜けた鳥の鳴き声がするかと思ったらFRTのラダーが立てる音だった。大阪組はふたりともラダー装備である。こういう時は便利だ。


天気は晴れたり曇ったりと忙しく移りかわる。晴れると暑い。これだけ広い川では曇ったくらいがちょうどいい。
3キロの直線コースに入る。人工の水路である。けっこう流れていたが、さすがに半分すぎると同じ風景に飽きた。大阪のふたりはスイープストロークの練習を始めた。FRTのおにいさんはスイープも知らなかったらしい。。。

直線コースが終わると流れはぐっと細くなり、蛇行をくりかえす。釧路湿原のなかに入ったのだ。両岸の風景はうっそうとした林のなか。川のアウト側には木が張り出してきていて、ぼけっと本流に乗っているとひっかけそうである。と、いっても源流部よりよっぽど広いし、木も少なく、流れもゆるい。ゆったり風景を見ながらくだってこれる。

緑のなか岸のそばに、白骨のような白い倒木が転がっていた。トンボが産卵のため水をちょっ、ちょっ、と尻でたたきながら飛びすぎる。トンビが遠くでぴーひょろろと笛のような声で鳴いた。川をわたる風がさわやかだ。
カヌーの上でそんな風景をメモにとりながらくだっていった。のどかだ。川の流れは漕がなくてもいい、ちょうどいい速さ。QG2の人は顔に帽子をあててうたた寝をしている。
やがて、倒木もなくなり、木が切れるところが見え始める。切れた木のあいだには釧路湿原の原野がわずかに見えた。はっきりいって、水の上から見る湿原はそんなに景色のいいものではない。が、それでも、釧路湿原のまんなかにいることを実感できる。それだけで嬉しい。

そろそろいいかげん尻が痛くなってきた。時計を見ると3時近い。昼食後、ひとつも上陸ポイントがなかったので、もう2時間以上も艇の上なのだ。毎日5時間カヌーに乗ってさらに今日はぶっ続け2時間乗っている。いささかコタエタ。
車の音が聞こえる。木立の向こうは車道のようだ。木がいいベールになっていて音はすれども姿は見えず、しかし上陸できるようなところはない。
二本松橋の手前に1か所、車で入ってこれる上陸ポイントがあったが、そこはファミリーキャンパーに占拠されていたので上がれず。
3:30二本松橋通過。赤い鉄橋の下は一応上陸できそうな岸の高さだったが、岸がどろどろの土で上陸を断念。
すぐ先、右岸にに小さな浜があった。3:38、ひさびさの上陸。実に2時間半以上船に乗りっぱなしだった。上陸直後は腰から下がしびれて他人のようである。キャンペットのシートの下に銀マットを敷いていたのだがやっぱり座面が悪い。

上陸した浜は奇麗だった。ちょうどそこは川がS字に折れ曲がる所だった。背のひくい木、水に半分流されかけている枝、水面から直接生えている草、遠くに見えるひくい山並み。人が道をつけていない原野の風景だ。1時間くらいここにいて絵を描きたいくらいだったが、ちょっとゆっくりできなくなった。もう虫がたかりはじめた。体中に虫よけスプレーをかけて対抗する。

そこから10分ちょっと下るとJRの線路の護岸の赤錆びた鉄板が見えてきた。二股だ。ここから振り返ると、塘路湖にから来る川の流れが見える。一応「塘路」という開発局謹製の看板が立っているのだが、位置がわるいので釧路川本流からは判りにくい。そこから塘路湖へ川をさかのぼった。


塘路湖へ伝わる川は、うっそうとした木が両岸から覆いかぶさってカヌー1艇分の幅しかない川である。かなり気合いをいれてのぞんだのだが、水は水路状態で流れておらず、きつい川の逆あがりではなかった。湖の一部のような川なのだ。
水路の幅はすぐに広くなった。湖から来たらしい、大人2人、子供2人が乗るカナディアンとすれ違う。間違えてはいないらしい。
ほどなく、2本の橋をくぐって湖にでる。広い。塘路湖はガラスの板をはめこんだような水面だった。湖を右に行くとキャンプ場が見えてくる。
4:43塘路湖キャンプ場前の浜辺に到着。カヌーで上陸するためにあるような浜だ。

土曜日の塘路湖キャンプ場は噂にたがわず混んでいた。キャンプ場の管理棟がちょっと離れたところに建っていた。ひとり350円。ここではジュースとビールの自動販売機があった。とりあえず、冷たいビールを飲んで生き返った。
鍋さんと浜の近くに場所を確保してテントを張る。今日は立ち木とパドルを使って鍋さんの持って来た小型のタープを張る。
「タープがあるとオートキャンプみたいだねえ。」
パドルで張ったタープはちょっとワイルドで雰囲気良かった。

上陸してから姿を消していた大阪のふたりが戻ってきた。買いものしてきたらしく、ビニール袋を下げている。
「近くに買い物できるところありました?」
「駅のそばにあった。片道15分くらいかな」
めんどうくさいので、結局僕は行くのをやめた。

キャンプ場のすぐまえが駐車場で、北方領土返還の宣伝カーが止まっていた。こいつが夜になると花笠音頭をスピーカーでおっぱじめた。キャンプ場内で花火をやっている家族もいる。隣のテントに穴あけたらどうすんだろ。噂たがわず、塘路湖キャンプ場はマナーの悪い客が多い。駐車場の車は道内ナンバーが多いようである。困ったもんだ。

足と手がひどくかゆい夜だった。ぜんぶ標茶の上陸地点でやられたらしい。直径3センチ程に腫れ上がっているやつもあった。あー、かゆい。