対岸はラオスだ。
チェーンセーンにて。





 友人は対岸を指さし、「あそこはラオ(ラオス)だよ」と言った。Khoong川と呼ばれているとも教えてくれた。

 源流は中国雲南省、ビルマーラオス、ラオスータイの国境を流れた後、カンボジア、ベトナムへと流れ進む大河、メコンだ。

 右岸と左岸で国が違う。それが国境の川だ。ロマンを感じずにはいられなかった。

 「この川でケヌー(カヌー)は出来る?」と聞かれ僕は安易に「出来ると」と答えてしまった。でも冷静に考えるといくつかの問題がないわけでなかった。

 1つ目の問題は地形図が手に入らない事だ。国境付近の地形はトップシークレット。ただでさえキナ臭い東南アジアではなおさらだ。しかたないのでタイ国軍地理省に出向き事情を話して1/20万の地図を写させてもらった。

 2つ目の問題はメコン川が国境というのは分かるが、川のどこが国境なのかと言う事だ。知らないまま国境を越えてしまい密入国を犯してしまわないか?、何としてもはっきりさせて起きたかった。

 日本でタイ人に会うごとに「メコン川のどこがタイとラオスの国境ですか」と聞いてみたが誰もが「分からない」という。いや、一人だけ「川の真ん中です」と答えた人がいた。根拠はタイービルマ間にかかる橋は川のちょうど真ん中に地位するところに線が引いてあり、そこが国境だからというのだ。本当だろうか?。だいたい川を漕いでいるときにここが川の真ん中なんて分かるのであろうか。

 タイ国軍地理省のブンイン技師は漕路は川の右側を保つこと、そうすれば問題なしとのことだった。。

 まあ、ひとまず川にフネを浮かべて、周りの反応をみてやるかやらないか決めようと考えた。



 3月26日(金) 晴

 この川を漕いで問題がないのか分からない。そこでラオスのイミグレーション(ラオス、タイ人専用)とタイのイミグレーション(同)と警察署の前を通過できるゴールデントライアングルからチェンセーン、10km漕いでみることにした。

スタート地点のゴールデントライアングル。
ビルマ、ラオス、タイ。3国の国境地点だ。


 フネを組んでいると4〜5人の現地の人が集まってきた。「これは何だ、ボートか?」「いえ、ケヌー(カヌー)船です」「どうやって持ってきたんだ?」「このカバンに積めて日本から持ってきたんだよ」「ウーーイ、初めて見るよこんなの」「西洋人が持ってきてやったりしてない?」「そんな人、一人もいないよゲラゲラ(笑)」

 見物人は50人近くにふくれ上がった。

 出発するとき、一番最初に話しかけてきたおじさんが接岸してあるボートに乗っていた。「どこに行くの?」「あそこまで、ほら見えるだろ、ギャンブルだよ、一緒に行くか?」。見るとビルマ領にきれいな建物が建っている。賭博場だ。




 まるでコンビニに買い物に行くみたいな気軽に隣国に遊びに行くのだ。そういえば昨日ラオス人がメコン川を泳いで渡っていた。周りの連中は「遊び遊びだよ」と言っ
て屈託がない。

 時期を同じくして日本近海では北朝鮮の工作船と海上自衛隊が追いかけっこをしていたらしい。

 漕ぎだした。乾季のメコン川の水量は少ない。とはいっても川幅はゆうに100m滔々と流れる。

 途中、川沿いにあるラオスの名もない村の前を通った。川からみるラオスの村は茅葺き屋根の家、炊事は焚火でやっているような素朴な村だった。子どもが「バーーイバーーイ」と叫んで追いかけてくる。

メコン川はただただでかかった。

 うっううーーん、上陸したい。上陸してお粥の一杯でもご馳走になりたい。

 この時点で気付いたが、ツーリングをしていて片岸しか上陸できないのはものすごい制限で重く伸し掛かってくる。ストレスだ。逆にラオスのビザを取りラオス側からスタートしても左岸のラオス側にしか上陸できない。

 国境の川にロマンを感じてやってきたが、欲求不満ばかりたまる。いや、なかなか難しいものだ。

                           おしまい

                              1999/4/7

                           城後岳弘@フジタ〜ズ