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8月3日日曜日
朝起きると大雨。
ほんとうにやるのお、と、おもいつつ、ごそごそと起き出す。
廊下の窓からみんなで外を見て不安顔。これで本当にでるのかいな。出発したとたんに水船になりそうな大雨である。
ぶらぶらしていると、完全装備ののっぽさんがぬっと現れた。やる気満々。「まだ中止と言われたわけでないでしょ。朝飯行くよ」そりゃそうだが。のこのこと食堂のホールに行くと、もう食事はできていた。朝の5時である。のっぽ、きき、ぽからの三人で一番乗りして食事をはじめる。やっぱりイカ刺身がでる。「今日取れたのよ」やはり、おいしい。
「こういう雨はすぐやむよ」と、旅館のおばさん。そういうもんかねえ、と、思っていたらあっという間に雨は上がりはじめた。とっとと着替えをして、荷物を作ってそそくさと車をはしらせ、数百メートル先の出艇場所へ。

まだぱらぱら雨は降っているが、それでも準備をしている人が数人。これは既に決行ムードである。
ここで驚いた。なあんと、清水さんが出艇の準備をしている。絶対に今回も飲み食いだけして朝には帰ってしまうに違いないと思っていたのに、奇跡のような驚きである。でも、艇はやたら早そうなシーカヤックであった。あなたはベルーガをもっていたはずでは???

荷物は、飲料の500mlボトルが10本、どーかんがえても多そうだが、スペア込みで購入しておいた。半分をひもをつけた網の袋に入れて足もとへ、もう半分を座席後部へ。ゼリーが6袋、まとめてこれもひもをつけた袋に入れてあしもとへころがす。防寒具かわりのカッパは着ているが、だんだん雨があがってきたので、脱いで後部デッキのネットの下へ押し込む。ちなみに、出発直前にパドリングズボンも脱いでおなじネットの下に押し込んだ。あと、チョコレート、カロリーメイトステック、キャラメルなどを防水袋にいれて足もとにころがす。今晩の旅館で使う着替え類はひとまとめにして漁船に預ける。「どの船にあずけたか覚えておいてくださいね」と、前日のミーティングで言われているので、デッキの緑色のぜんぽー丸に預ける。ぜんぽーまる、と、@neさんといっしょに覚えていたが、出港直後にかんっぺきにわすれてしまった。
のっぽさんに借用したくば笠をかぶる。これで雨でのきっと大丈夫。

声がかかって、ゼッケンの配布がある。自分の番号のゼッケンを受け取る。ライフジャケットの上からつけると、どーみても小さい、胸ゼッケンである。

さて、いよいよ、みなさんの準備が揃って、どんどん海にこぎ出す。私もこれから数時間をいっしょにすごすべきカナールに乗り込む。ファルトボート流に飛び乗って、さいごには手で岸を押しだして海に浮かぶ。次にこの岸のかたさを感じるのは何時間後か、その瞬間手放した、かたいコンクリートの手触りがやけに手に残った。
艇が軽い。そりゃそうだ。こういうツーリングだと、もっともっとキャンプ用品をたくさん積んで艇が重くなっているものである。

すぐにでもこぎ出しそうな勢いのカヌーイストを主催者が声をかけてひきもどす。すごい艇の数。それほど狭いはずがない湾内はカヌーでいっぱいである。
岸壁に見送りの人々がぱらぱらと立っていて、そのなかの一人から、出港に当たってのおことばがある(あれは誰だったんだっけ)。選手代表のひとことがある。「必ず津軽海峡をわたりきります」
岸壁のおじさんが、ぶらさげたドラをじゃんじゃんじゃんと鳴らす。出発である。

出港6時予定のはずが、6時半をまわっての出港になった。

湾内を外海に向かってこぎはじめる。まわり中カヌー、総勢50隻はすごい数である。
かっくいー、
色とりどりの細長いカヌーが、同じ方向をめがけて流れていく。そのなかに自分がいる。わくわくするような風景である。岸壁にあがって、その瞬間の写真を撮っておきたい気分である。
流れが流れる。岸壁をまわりこんで、景色がひらける。海だ。
大海原がひろがっている。目の前に、十数艇の伴走船が小さなカヌー達を待っていた。いや、すでに走りはじめていた。それにおくれまじと、カヌー達が流れる。
しかし、ペースが早いなあ。
とにかく、中盤にいて、なんとかくいついていこうというのが作戦であった。きっとのっぽさんもききさんも船団最後尾部隊になるだろうが、最後を漕ぐのはやはり精神的によくない、きっと私のカナールなら中盤くらいに位置していられるだろうと読んでいた。
船団は進行方向を真西に向けて、権現崎を左手にみながら進む。
伴走船が隊列をつくる。先導する、「前方監視船」をあたまに、50艇のカヌーをとりまくように左右に伴走船が並ぶ。一番最後尾には、「後方監視船」が付くとのこと。あまりに遅れると、リタイヤの勧告が伴走船よりあるという。それだけは避けたい。

横にいたミナミの清水さんがこっちをみて指摘する。「おなじパドリングスピードでも、進む速度が違うんだ」やはり、シーカヤックは速度が出る。くやしいが、動かしがたい事実。。。。するすると先に行ってしまった。後ろ姿があっというまに小さくなって、わからなくなってしまった。ちょっと悔しいが、仕方がない。

左右の伴走船のまんなかあたりを漕いでいく。あの後ろ姿の艇まで追いついてみよう、と、思ってもなかなか追いつけない、というより、ついていくのがやっとである。どーみてもペースが速い。漕いでいて、飲み物も飲めないと言うのはこのことであったか。漕ぐのを休むとあっという間に置いて行かれそうで、がんばって漕ぐ。

きがつくと、めじるしにしていた左右の漁船がジリジリ先に行ってしまう。同じ伴走船を左右に見て漕ごうと思うのだが、そこまでは速度が出ない。じりじりと、伴走船が前に行ってしまう。そんなにパドリングが遅いかなあ。

権現崎の絶壁が見える。
海から見た景色もなかなかのものである。こんどはゆっくり眺めてみたいものである。ちょっと上陸によさそうな浜もあるのだが、あんまし眺めてもいられない。

ふと、左側の搬送線のエンジン音が大きくなる。
みると、さっきから左手の遠くを並んで漕いでいた緑いろのシーカヤックが沈しているのが見える。ほかのカヤックがレスキューに近寄っていくところであった。その後ろから伴走船がきびすをかえして近よっていくところが見えた。
さすがに、ここからあそこまでレスキューに行くのもだいぶ遠いので、私は私のペースで漕いだ。伴走船が救助に行っているので危険はなさそうである。しかし、まだ沈をするようなポイントではないのに。

海の上の風景は5分おきにかわるようだ。ちょっと肌ざむいので、ジャケットを脱いできたのをちょっと後悔したが、そのすぐあとには日が出てきて暑くなってきた。次の休憩では日焼け止めを塗り直す必要がありそうだ。
いきなり波が高くなる。上下してなかなか楽しい。このときはまだ進路に影響を及ぼすような大波にはなっていなかったので、楽しみながら漕いでいられた。

左手、とおくに漕いでいないカヌーが見えた。たばこをすっている。まさか、もうあきらめて終わりにするのかなあと、思いつつも、横を抜けて漕ぐ。あとかわらかったけど、余裕をかまして休憩しているこみてつさんであった。

しかし、いっこうに休憩にならない。たしか、6時半には出発したはずなので、7じ半休憩かなあとおもっていたが、その様子がない。山岳部で登山をするときには、さいしょの30分で5分休憩を取り、そのあと、1時間スパンで登る。最初の30分目の休憩は靴とか、ザックとかのセッティングを直すための休憩なのだ。この30分目の休憩はながく歩くためにはけっこう重要で、今回もいろいろと直したいポイントはあったのだた、そういう休憩はないようだ。
と、いうより、先頭はすでにはるかさきで、先導船のあかいフラッグがかすかに見えている程度で、なにがおきているかなんかさっぱりわからない。

まだかなー、まだかなーと、思いつつ、漕いでいると、遠目にカヌーが進行方向と直角になっているのが見えた。
休憩だ。
休憩だとわかってから、えっちらおっちら近づくのが長い長い。最後のひとふんばりとばかり、休憩をしている団体の中におさまった。はあーーーー。

休憩時間。権現崎は左後方。眺めているばあいじゃない。休憩時間はいそがしい。
まずは、飲物を飲んで、ゼリーをひとふくろ吸う。これでかなり生き返る。筋肉疲労用のスプレーと日焼け止めのスプレーを腕にふきつける。ついでにトイレもしようかと思ったけど、さすがにまだでない。

後ろの方からのっぽさんが来たのが見えた。くば笠はいっぱつで視認できるので便利だ。これが最後尾かな、ききさんが見えない。まさかもうリタイヤはしていないんでしょうが。

再スタート前にできるだけトップの方に入って、そこから順位を落としていきたいなと思っていた。が、気がついたら先頭が漕ぎ始めていた。
おいおい、スタートのアナウンスもなんにもなしである。そもそも、アナウンスするような拡声器がないようなんですが。そういうもんなのかなあ。左右に声をかけても届きそうもないので、気が付いた順番にいままで休憩していたカヌーもきびすを返して出発していく。最後尾が到着したと思ったらすぐに出発した感じだ。

あわてて、バケツに付けてあるカラビナををデッキロープにはめ、あわてて出発。数漕ぎしたところでバケツが吹っ飛んだ。カラビナがしっかりついていなかったらしい。時間がないからカヌーを返して取りに帰るのも面倒かとも思ったが、津軽海峡にゴミを残すのも気が引けるし、あれがないとこれから不自由するし。艇を返す。みんな混乱してスタートするところだったので、赤いシーカヤックにぶつけそうになる。ごめんなさい。バケツのところに近づいたときには、バケツに水が入って沈んでいくところであった。キャッチ。君にはまだまだ活躍してもらわねばならぬ。

休憩後も、同じペースだ。だいぶ早い。
@neさんの白いベルーガが右側に見える。ベルーガと並走出きるとは実はたいしたものか(ちがうって)。とにかく、遅れないようにがんばって漕ぐ。すこしさぼるとむこうが半艇さきにいってしまうので、すぐにがんばって並ぶ。

しばらくいくと、横から波ができた。これがあっというまに高くなってきた。進路に影響もしていないとおもっていたのもつかの間、ほっておくと右側にどんどんどんどん流される。
波と風が右からやってくる。ここの潮流は左から右(南から北)なので、潮の流れと風が逆になっったらしい。

カヌーが勝手に右を向く。右だけを片漕ぎする。左を全く漕がなくても、右だけ漕いでいても右に行ってしまう。おいおい、ちょっとまずいんでないかい。やがて、シングルパドル状態でパドルを立てて漕ぎはじめる。ラダーが欲しい。

横からまともに波を受けて、コックピットにみずがざっぷんと入ってくる。こりゃまずい、今、カバーしていないのである。それだけならいいが、波にもっていかれてひっくりかえったら、洒落にならない。
目線は右方向に釘付けになった。大きな波が来ないか見張りながら漕ぐのである。大波が来たタイミングで乗ってサーフィンで先に進もうと試みるのであるが、これが、進んでいるのか失敗しているのかさっぱりわからない。気がつくと、まわりにカヌーがいない。視界にちゃんと見えているカヌーは、2,3艇である。この背中を見ながら漕ぐ。
どんどん右に流されるが、その右側を守っているはずの伴走船がいない。左手、はるか先の方にいるが、流されていく先の右側にいない。だいぶ隊列が延びているのか、伴走船の位置が遙か先だ。さらに言うと、先導している「前方監視艇」なんて、どこにいるのかわかりゃしないくらい遠い。いったいどうなっているんだ。
今、右側をまもっている伴走船がいないということは流されたらおわりかいな。先の方を先行する伴走船よりも右に出ないように見ながら漕ぐ。

ざっぱーんと、波から落ちてきたときに、カヌーの進行方向が回される。目標にしていたカヌーが、その先の伴走船がいきなり消える。90度違う方向にいたりする。目が回っているのか、船酔いなのか、それとも寝不足か。あたまがぼーっとしそうになるが、気合いで乗り切る。時計を見ると9時10分前。休憩は近いぞ、がんばるべし。

このくそ忙しいさなかに、歓声が聞こえた。こみてつさんである。いなかったはずのこみてつ艇が横にいた。「ひゃっほー、私の期待した津軽海峡になってきましたよー。楽しんでますかー」
ははは。。。。。。こみてつさんにとって、今までの凪いだ海は気に入らなかったらしい。
こちらは、どこからどうみても楽しんでいる状況ではないのだが、こーなったら楽しむしかない。叫び返す「たのしんでいるよおおお」「いいですねえ、はい、写真とりますよお」
この大波のなか、こみてつさんは両手でカメラを構えて写真を撮った。そのまま、前方に走り去ってゆく。うーむ、レベルが違いすぎる。

なんて言うことも感心している暇もなく、ひたすら片漕ぎをくりかえす。ラダーがあればもっと効率的なのか。無理してでもラダーを付けておかなかったことを後悔しはじめた。日程が合わなくなってラダーはあきらめたのだ。いつもと違うカヌーにしない方が効果的だ、あの足に巻き付けるラダーは気に喰わん、と、思っていた。いつもと違う海の状況を漕ぎながら。
シングルパドル状態で漕ぐと腕が疲れてもたないので、右を二回漕いで、左にラダーを入れる動作を繰り返す。こっちのほうがまだ効率的か。しかし、ラダーを入れている動作がだんだん大きくなる。波を乗り越える動作をするために漕ぐのを止める時間が長い。
気が付くと、もう@neさんの白いベルーガが見えない。前に行ってしまったようだ。他の艇にも追い抜かれている。みんなラダーがあるのか。ラダーのない赤いブリジャンテと併走する。あまり近くによると、波で押されて接触しそうだ。数メートルくらい、自分の意志がなくても艇が動いてしまうのだ。つかず離れずの距離が難しい。この艇には抜かれないように、と、思って抜かれた後もついていこうとしたが、気が付いたら前にいるのか横にいるのかわからなくなってしまう。
全力疾走で漕がないと全くついていけないが、このままではどうかんがえても、ゴールまでは持たないような気がしてきた。まだ漕げる余裕はある。まだリタイヤとは言わない余裕はあるが、どう考えてもマラソン式に漕いでいない、短距離走的に漕いでいる。とにかく、昼までは絶対にリタイヤしないでがんばろうと思うことにする。半分よりむこうに行けば、絶対次の力が沸いてくる。とにかくこの波を漕ぐことが第一である。しかし、この横波はいつまで続くものやら。
握っているはずのパドルがするり、と、抜ける。腕が疲れているのか、握力がなくなってきているのか、手袋がすべるのか。しかし、まだまだ気合いでなんとかなる
目標にまっすぐ艇をむけるのがむずかしい。波に対して平行にコースを取れないので、波にぶつかっていくか、うしろから押してもらうかの択一になってきた。艇のコースは本格的にじぐざくになってくる。進んでいるのやら、止まって波をよけているだけなのやら。波に乗ってサーフィンしたいのだが、できているのか、そのまま流されているのか。
前方の艇も、横を向いていたりする。みんなじぐざく航行になっている。ラダーは完全には機能していないようだ。しかし、ないよりはあったほうがいいだろう。

やにわにエンジン音が後ろから響く。暇を見てふりむくと、今までさっぱり見かけなかった伴走船が大きく目に入った。最後尾だ。すぐにわかった。その艇の前に数艇のファルト、ひとりは、くば笠、のっぽさんだ。
うわあ、ついに最後尾まで順位をおとしてしまったかあ。まずいまずい。
とにかく、この先はもう遅れられない。抜かれないでしっかり漕がねば。

と、前を向くと、伴走船が横を向いていた。停止している。その横にカヌー。回収作業中だ。
全艇撤収?
まさか、という感想より、私にはやっぱり、という思いの方が強かった。
伴走船の横に主のいない緑色のシーカヤックがぷかぷか浮かんでいる。主が伴走船に乗るときに確保し損ねたのか。誰かがそれを確保に行って、つかまえる。

私が現場に着いたときにはかなりの撤収が始まっていた。あとで聞いた話、10時の休憩が始まってから大波で沈する人が続出。いかだを組もうにも、筏のカヌー同士が接触して危険な状態になったとのこと。清水さんは先頭集団でレスキューに回っていたそうだが、脱沈をした人間を再乗艇させるのはほとんど不可能だったとのこと。一人で絶対沈をしなければ漕ぎ続けられた天候だそうだが、沈をしたらその人は津軽海峡チャレンジ終わり、ということであったらしい。すくなくとも、私はこのときの中止の決定は正しかったと思っている。そのまま続けていれば遭難者がでたであろう。


「撤収ですかあ」「はい」近くにいたカヌーに声をかける。声もなかなか聞こえない。
カヌーを回収している伴走船の近くに浮かぶ。2,3艇が順番を待っていたが、なかなか近づけないで苦労していた。
これはすぐには乗れない、ファルトは後回しと言っていたので、だいぶかかりそうである。他の伴走船に行こうと思っても、どれに近づけばいいのかわからない。
見回すと、向こうの伴走船から、こっちへ来いと呼んでいた。声が聞こえないので指を指している姿でそれとわかる。そっちへ行くぞとゼスチャアで答えて、近づく。風下から、といっていたが、回り込んでいる暇はなさそうだ。漁船にぶつけるつもりで近づいて、直前でくるりと艇を90度まわす。いつもと違って、コックピットから外せるようにしてあるデッキロープを外す。「パドルよこしてください」の声にパドルをもってもらってひっぱってもらう。ロープを渡す。「艇は確保しました、乗って」との声に漁船の横に手をかける、その瞬間、漁船がぐおーっと傾いて、手をかけたところがするするっと持ち上がって壁になる。身体をもっていかれそうになって、あわてて手を離す。それでも、デッキロープでうちの艇は保持されていた。次のタイミングで艇をけ飛ばして漁船に飛び乗る。漁船の上でまともに立てない。カヌーを引き上げるのを手伝おうと思ったが、単なる邪魔者にしなからなかった。

時計を見ると、10時をだいぶすぎていただった。9時から時計を見た覚えがない。休憩したいということすら覚えていないくらい波と格闘していたらしい。川と海はやはり、まったくちがうものだ。怖いとは思わなかった。沈するとは思わなかった。とにかく、熱中してひたすら漕いでいたようだ。

とりあえず、艇から飲料のボトルをひっぱりだしてごくごく飲む。人心地ついた。つぎにやったことはカメラを出してまわりを撮った。まだ引き上げ作業は続いていたが、この艇は私を最後にいっぱいになってしまったようだ。
漁船が走り出す。
私を引っ張り上げてくれた人は、スタッフの秋元さんであった。「北海道に行きます、波が収まったら、カヌーを降ろして再スタートします。波が静かになったらね」
スピーカーで他の漁船との交信が聞こえていたが、ほとんど方言でさーーーっつぱり判らなかった。でも、途中から艇の数の確認をはじめたのは判った。××丸、六艇!××丸三艇!と、くりかえしていくやりかたである。なんだい、ゼッケンの番号で確認していたわけでないのか。私の目の前に、船長のものらしい紙袋があり、パウチされた参加者リストがあったのが見えた。活用していない。

拾われた同じ伴走船にはこみてつさんが乗っていた。こみてつさんは、魚船上の自分のオレンジ色のシーカヤックに乗り込んで、走り去る海の遠くを見ていた。

第六回津軽海峡横断、6時半出発、10時全員洋上撤収。
これが今回の結果であった。